2012年11月4日日曜日

追憶の彼方

すえた臭いの滲みついた薄暗いジム、中綿もすっかり潰れてぺしゃんこになったグローブ。かつて僕は、キックボクシングという狭い世界の中で、貴重な青春の滾りをぶつける若者たちと共にいた。名誉や富とは無縁のマイナーなスポーツ、いや、スポーツという言葉などまるで似合わない、野暮で武骨な殴り合いだ。しかしそこで出会った若者たちはとても青臭く、か弱く、それでいてとても輝いていた。嘘の付けない、世渡りべたの愛すべき仲間たち。僕にしたって、今よりは少しはましだったかもしれない。強くなること、目的はただそれだけの世界で、お互いの魂を雄たけびを上げながらぶつけ合った。もう二度と戻ることのできない、古き良き、無垢な時代の想い出でである。


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