2014年10月29日水曜日

新作を書き始めましたよ

 さっそく新作を書き始めました。ひとつはアンドロイドが主人公の本格的SF。もう一つは、ユーモラスな推理小説。アンドロイドの方(すでに200ページを執筆済み)はまた紹介するとして、今日は推理小説の方の冒頭部分をご紹介。期待しててね❤


名探偵の事件簿の主人公、あの小田切慎二が、あれから二十年を経て帰ってきた!

老探偵の事件簿 ―探偵は、腰痛もちで満身創痍―

「じいさん、じいさん、じいさん!」
(なんだよ、あーうるさい)
 せっかく昼寝の体勢に入ったばかりだというのに、まったくやかましい青年だ。どうせまたろくな用件でないにきまっている。我輩はあわてて毛布を頭からかぶり、狸寝入りを決め込んだ。するとこの男、づかづかと勝手に部屋に入ってきて、
「なんだよ、また寝てんのかよじいさん。しょうがねえなあ」
 ずいぶんぞんざいな声でえらそうに悪態をつきおった。「お前にしょうがねえなんて言われる筋合いはないわ」そう言い返したいところだが、起きたら起きたでまた面倒だ。わしは聞こえないふりをしてわざと大きないびきをかいてやった。するとこの男、我輩の毛布に手をかけ、あろうことかそれを力任せに引っ張りおった。
「な、なにをするんじゃっ、無礼者!」
「事件だよ、じいさん!」
「じ、事件?……も、もうかりそうな事件か?」
 不覚にも声が詰まってしもうた。まあそれもしょうがない。ここのところの不景気で客の金払いは悪いは、そもそも仕事そのものがめっきり少ない。大好きなキャバクラへは行けんは、それどころか家でちびちび飲む晩酌のウィスキーすらまともに買えんありさまじゃて。
「どうなんじゃ、もうかりそうなのか?」
 我輩が訊き直すと、
「それは、わからん」
 こやつは胸を張ってこたえおった。どうもこの男は自信の見せ所を間違えとる節がある。かまわずわしは先を急いだ。
「で、どんな事件じゃ?」
「殺し」
「殺し?」
「ああ、殺し」
「な、なんでそんなぶっそうな事件がわしんとこに?」
 不覚にも少し狼狽えた声でそう言うと、
「そんなこと知るかい。ほらじいさん、さっさと起きな。事務所でクライアントがお待ちだぜ」
「い、いってってってっ……」
 このやろう、我輩の耳を掴んで引っ張りおった。しぶしぶソファーから起き上がると、わしは乱れた髪をなでつけ、よれよれのジャケットを羽織り、背中をしゃんと伸ばして、事務所へ通じるドアに向かったのさ。

事件簿その一

 事務所に入るなり、わしは我が目を疑ったよ。部屋の隅で両手をへその前で結んで立っておるのは、なんとも見目麗しき乙女じゃないか。わしがもう少し若かったらすぐにお茶屋にでも誘うところじゃて。それにしてもあの男、こんな素敵なお嬢さん――いや、お客様――を立って待たせるなんぞ、まったく礼儀を知らん。
「まあ、お座りくだされ」
 わしは努めて落ち着いた口調で言ったよ。もちろん下心なんぞはないぞ。紳士としての当然のたしなみじゃ。
「はい……」
 娘さんは細いあごを小さく引き、蚊の鳴くようなか細い声で答えると、華奢な身体を曲げて椅子に座った。絵になる。じつに絵になる。
「おーい、お茶!」
「へっ?」
「へ、じゃねえよ。はやくお客さんにお茶を出せってんだ」
「あっ、へい……」
 まったく使えない男だ。来月の給料は少し考えんといかんな。おっと、そんなことを考えとる場合じゃなかった。仕事仕事。
「で、ご依頼はなんでござろう?」
 わしが努めて丁寧に訊ねると、娘さんは少しうつむき、
「父を、父を助けてください……」
 苦しそうに声を絞り出したよ。
 まだ何も聞いていないのに、じいさんなにやら胸に込み上げるものがあって、つい身を乗り出して言ったさ。
「お嬢さん、詳しく話を聴かせていただこうじゃ、あーるまいーか」
 いかんいかんいかん! ついいつもの癖でおちゃらけた言葉遣いになってしもうた。これもぜんぶあのバカ男のせいじゃ。しかし娘さん、そんなことはまるで気にしないといった風で、真顔のままで返事をしたよ。「はい」とな。素晴らしい。じつにできた娘さんじゃないか。娘さんは続けた。
「じつは――」



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