2014年11月30日日曜日

夕方と朝方、その頃合いを表わす言葉に隠された面白い秘密 #言葉のお勉強

 みなさん、彼誰時(かわたれどき)という言葉をご存じでしょうか? そう、朝方のまだ暗い時間帯を表わす言葉ですね。その語源は、まさに字のごとし、暗くて彼が誰だかわからない、から来ているのですが、それなら夕方だって同じじゃないか、と思うわけです。

ビンゴ!

 じつは彼誰時は、かつては朝方だけではなく、夕方の薄暗い時間帯を指す言葉としても使われていたのです。しかしそのうち夕方の方は他の言葉に譲り、もっぱら朝方のみに使われるようになったわけですね。ではその譲った、夕方を指す言葉とはなんでしょうか?

そう、黄昏です

 皆さん、この黄昏と言う言葉、その語源をご存じですか? これが実に面白いのです。黄昏は、誰そ彼(たそがれ)がその語源で、その意味は、誰ですかあなたは、と訊ねるほど暗い頃合い、というものなのです。

彼誰時と同じじゃないか (`へ´)フンッ!

 ご立腹もごもっとも、けっきょくどっちも、彼奴(あやつ)は誰じゃ、と言うわけです。

 言葉って面白いですね。ちなみにまだ薄暗い朝方を表わす言葉としては、他に、

明け方、暁、曙、黎明、東雲

 と言った言葉が、また夕刻を表わす言葉としては、

夕暮れ、夕べ、薄暮、逢魔時、日暮れ、夕さりつ方

 等々、色々ありますから、都度使い分けると変化を付けられて良いかもしれません。えっ、覚えられない?

覚える必要なんてありません

 もしあなたが日本語入力ソフトにATOKをお使いなら、たとえば夕暮れと入力して(漢字に変換してください)、次にCtrlキーTabキーを同時に押せば、あら不思議! ATOKの連想変換機能が働いて、同義語を、これでもかと表示しますから。

えっ、その操作も覚えられない?

 困った人ですね。そういう人は、もうこれしかありませんね。そう、CtrlキーとTabキーの色を変えるのです。このように。

では、今回はこれにてお終い。

「色」を用いた色々な慣用句 #言葉のお勉強

 さて今回は、標題のとおり「色」という文字を使った表現、その中でも特に人の表情や、さらにはその奥に潜む感情を表わす慣用句についてです。

 ではここで質問です。あなたは彼女とのデートをすっぽかし、その上謝るどころか、「てめーみてえなあばずれとデートなんて出来るわけねえだろーが!」と悪態をつきました。すると彼女は顔を真っ赤にして激昂しました。このときの彼女の様子を、「色」を含む慣用句で言い表してください。

 答えは、そう、「色をなす」ですね。いわゆる、ムカつくってやつです。

 では続けて第二問。あなたは自動販売機でジュースを買おうと、ポッケから財布を取り出しました。そして百円玉をつまんで、震える手でそれを挿入口に運びました。ところが。。。アーッ! なんと百円玉が滑って落ちて、地面を転がり、排水溝の中に消えてしまったではありませんか! このときのあなたの様子を、「色」を含む慣用句で言い表してください。

 答えは、もうおわかりですね。そう、「色を失」です。

 では最後の問題です。毎日ブラブラ無為に過ごしていたあなたですが、両親に責められ、渋々仕事を探すことになりました。そして応募した会社の面接が、いよいよこれから始まります。さあ、気合いを入れて、凜々しい姿で臨みましょう! と、このときのあなたの様子を、「色」を含む慣用句で言い表してください。

 はい、そうです。「色を正す」です。

 とまあ、色を使った色々な慣用句をご紹介させて頂きましたが、まず僕は、これらの表現を使うことはありませんね。理由は簡単、直感的でない、からです。

「彼女は色をなして責め寄った」

 なんだか言葉が浮いている感じがします。これならば、「彼女は顔を真っ赤にして、唾を飛ばした」のほうが、臨場感に溢れていていいじゃないですか。少なくとも僕はそう思うわけです。まあ、美しさという点では、前者の方が勝っているのかもしれませんが。

「僕はスピーチを前にして、色を正した」

 こうなるともう、何を言っているのかさえよくわかりませんね。僕だったら、「僕はスピーチを前にして、無理やり真顔をこしらえた」と書きたいところです。

 とまあ最後の最後に、あまり役に立つことはないだろうという、とても残念な落ちになってしまいました。

「なおざり」と「おざなり」 #言葉のお勉強

 みなさん、意識して使い分けていますでしょうか?

なおざり(等閑)
おざなり(御座成り)

 この2つの言葉、なんとなく語感や意味が似ているので混同しがちですが、じつは大きな違いがあります。
 なおざりは、いわゆる放置プレーというやつで、ほとんど何もしないで放っておくことですね。この「等閑」という単語は、じつはれっきとした漢語で、「とうかん」と読みます。意味はなおざりと同じで、おそらく「なおざり」にこの漢語を当てたものだと思われます。このなおざり、とても古くからある言葉のようで、少なくとも平安時代には広く使われていたようです。

 一方のおざなりはというと、こちらは比較的新しい言葉で、最初に見られるのは江戸時代のようです。意味としては、「テキトーでいいっしょ」ってやつで、誠意なく適当に済ませる、という意味ですね。語源としては、太鼓持ちがお座敷にお呼びがかった際に、客によって扱いを変えることから、つまり、「御座なり」 に済ませる、ことから来ているという説が有力らしいです。もちろん其の真偽は僕の知るとことではありません。其の時代に生きていたわけでないのですから、あたりまえですね。

 ところで、この2つの言葉を巡ってはいろいろと面白い話があって、その語感と意味の近似性から、一方がもう一方から音転して生じたものだと説く人もいるようです。ただその人は「おざなり」⇒「なおざり」説を主張しておられ、これはそれらの言葉の出生の順序からして明らかに間違いだと思われます。でも、逆なら十分にありえそうです。つまり、江戸時代、当事すでに一般的であった「なおざり」という言葉をもじって、御座なりという言葉が生まれた。。。

 まあ今となってはなんとでも言えることですね。なにしろその言葉をつくった本人がいないわけで、誰も真偽のほどを確かめようがないわけですから。


2014年11月26日水曜日

過去を懐かしむようになったら、もう人間は終わりかもしれないね

 小説を書き始めてちょうど4年が経ちました。今から4年前、仕事でいろいろと行き詰まり、すべてを投げ出したのはいいけれど、何をする当てもなく、そこでなんとなく書き始めたのがきっかけでした。
 半年、いやほとんど1年、仕事もせずに執筆に没頭し、このままでは路頭に迷うと焦り始めて仕事を探し、3年前に今の会社に拾って頂きました。とても感謝しています。
 それからの3年間は、仕事をしながら書き続け、かつての自分からは想像も付かないほどに、人間として、充実した日々を送ることができました。これも小説のおかげです。
 元来熱中しやすく、のめり込むと周りが見えなくなる僕は、それまでずっと、仕事に人生のすべてを費やしていたように思います。キックボクシングをしたり、渓流釣りに熱中したりもしましたけれど、それはあくまでも余暇の過ごし方の一形態に過ぎず、主は、間違いなく仕事でした。
 でも今は違います。仕事も人生の一部ではありますが、執筆も、また人生の大きな一部なのです。
 ただ困ったことも起きています。それは焦りです。執筆を休むと、言い知れぬ恐怖が闇の向こうから舞い降りてきて、僕の首をギリギリと締め付けるのです。それはかつて、失業時代にときおり僕を襲った、あの絶望感にもどこか似ています。
 とは言っても、今のところは路頭に迷う心配もなく、かつてに比べればずっと恵まれているわけで、逆にもう少し自分を追い込んだ方がいいのではないかと思うこともあるくらいです。けっきょくのところ、たぶん、僕は幸せなのだと思います。

 今、4年前に小説を書き始めた頃の初期の作品である「名探偵の事件簿」という愚作の、その続編を綴っているところですが、すると、つい想い出してしまうのです。この4年間は、とても長い年月でした。作品では20年が経過したことになっています。でも、僕にしてみればこの4年は、まさに20年にも匹敵するほどに充実した、そして貴重な4年だったのです。たぶん……

 この4年間を振り返り、amazonの著者ページを見ながらチビチビと飲むウィスキーが、今夜はいつもよりずっと心に沁みます。

2014年11月15日土曜日

先日発表しました「老探偵の事件簿」、そこそこの売れ行きです。調子に乗ってさっそく続編を書いております。最低でも一ヶ月に一作、できれば二作、頑張りたいものです。では、第二作目の冒頭をば。


老探偵の事件簿 其のニ


 横浜は関内の、大通りから一本中に入った裏通り、その通り沿いの赤茶けた煉瓦造りの雑居ビル、その一階が我が探偵事務所と書斎兼リビングで、二階が我輩の住居になっておる。
 正月、といっても完全自由業の我輩にとってはいつもと別段変わるはずもないのじゃが、いちおう気分だけはあやかろうと朝から酒を飲み、そして書斎兼リビングでソファーに横になって、夕方まで昼寝をしておったら、とつぜん毛布を引っぺがされてしもうた。
「じいさん、じいさん、じいさん! たいへんだア!」
 寝起きと、酔い覚めが重なり、わしはもう不機嫌きわまりない。
「なんじゃ、このバカタレ!」
 思わず怒鳴りつけたのは、不機嫌だけが理由ではない。なにしろこの伊集院の「たいへん」は、十中八九、たへんだったためしがないのだ。そんな我輩の気持ちを知る由もなく、こやつは続けた。
「寝てる場合じゃないだよ、じいさん」
「だからなんじゃ!」
「仕事だよ。クライアントさまが隣の事務所でお待ちだよ」
「クライアント? 男か、それとも女か?」
「女だよ」
「若いのか?」
「若いよ」
「よっこらしょ、っと」
 わしはこやつに、はやる気持ちを悟られまいと、努めて落ち着いた風に腰を浮かしたさ。よれよれのジャケットを羽織り、髪をなでつけ、曲がった腰を無理やり伸ばして、わしは事務所へ通じるドアを開けたのさ。
「おおっ!」
 っと、いかん、いかん、いかん。つい声に出してしもうたがな。まあそれも無理なからぬことよ。なにしろ夕日差し込む茜色の事務所の中には、まるでファッション雑誌から飛び出したような、八頭身の美女が佇んでおるではないか。それにしてもあのバカタレ、まったく気の利かんやつじゃて。
「まあお座りなされ、お嬢さん」
 わしは娘さんに席を勧めるとすぐに、「このバカタレ、お茶をもってこんかい!」伊集院に怒鳴りつけてやったさ。こやつ、「へ、へいっ」あわてて流しに向かったよ。使えん、まったく使えんやつじゃ。こりゃ来月からは給料も考えんといかんな。
「で、どういったご用件かな?」
 わしが努めて丁寧に訊ねると、
「父を、父を助けてください……」
 娘さんが涙声で言ったよ。嫌な予感がしたな、わしは。この前――そう、あの花椿教授の事件のことが頭をよぎったんじゃ。それでなくとも不自由なわしの足、その右足がいまもときどき痛んでいかんわ。いつもなら「喜んでっ」というところじゃが、今回のわしは冷静だったよ。
「お父上を? はて、いったいどうされましたかのう?」
「じつは――」

 話しを聴き終わって、うーん、とわしはうなったさ。こりゃとても探偵なんぞの出る幕じゃない。警察の仕事じゃ。でもその警察が拉致があかんからこそ、ここに来ておるのじゃ。藁をもつかむ思い、ってやつか。わしはもう一度娘さんの顔に目をやった。澄んだ目に滲む涙が、そこに映り込む赤い夕陽に彩られ、まるでルビーのように輝いておるじゃないか。思わずわしは言ったさ。
「よろしかろう、お嬢さん。まあわしに、まかせてちょんまげ」
 いかん、いかん、いかん! またおちゃらけた物言いになってしもうた。これもあいつのせいじゃ。あのバカ男の。
「コラッ、伊集院。お茶はどうした!」
 わしが怒鳴ると、「へ、へいっ」やつはあわてて駆け寄ったさ。そして、
「あーっ!」
 わしの目の前でずるっと転げおった。しかも、
「ごめんよごめんよじいさん!」
「あーちっちっ!」
 わしはポッケからハンケチを引っ張り出し、ひっしでズボンの股間を拭いたさ。使えん、まったく使えん男じゃ……

 気を取り直し、わしはお嬢さんの話を心の中で復唱した。事件のあらましは、ざっとこうじゃ。

2014年11月8日土曜日

新作(短編)をリリースしました

 先日紹介した短編小説を、本日発売しました。タイトルは、老探偵の事件簿 其の一
 本作品は、僕が小説を書き始めた頃に書いた作品、「名探偵の事件簿」の主人公の、20年後の姿を描いた作品です。老探偵、あるいは作中ではおじいさんと呼ばれていますが、まだ57歳、バリバリの現役探偵です。
 タイトルに「其の一」と付いているように、これは連作もので、これからどんどん続編を発表していきます。乞うご期待!